第三話


謎の集団にさらわれたレイピアは途中縄で拘束をされ、始終担ぎ上げられて運ばれた。
どれぐらいの時間運ばれたのだろうか、大分たってからいきなりドスンと地面に落とされる。
何の予測もしてなかったので、予測していた時よりずっと痛いんだろうと思う。
せめて声ぐらいかけてくれないものか。しかし縛られていては身構えしてもどうにもならないが。


「そいつが例の奴か?」


かなり渋い声が前の方から聞こえた。
ばさっと目隠しを外され、急な眩しさで目がくらむ。
慣れようと瞬きをしている間に縄を解かれ、目をこすると大分マシになった。


目の前に居たのは、傷跡だらけのなんだか厳つい筋肉質な男の人だった。


状況を見極めようと周りを見渡す。
どうやらどこかの洞窟の中らしく、周りは湿った岩ばかりだが、左上の方から太陽光を入れるための亀裂があるため、結構明るい。
先ほどの武装集団は後ろのほうで隊列を成していたが、さっきより数が多い気がするのは気のせいだろうか。
そしてその男の人は、他とは違う台座のようなところにいることから、ここのリーダーかなにかだとレイピアは思った。


しかし、レイピアにはどう考えても、誘拐されるような理由が全く思いつかなかない。
聞きたいところだが、リーダーは恐ろしい形相でレイピアを睨んでいたため、恐怖から聞くことも出来ない。


「ガーゴイルがこの少年を一人狙いしていたので、間違いないかと」

「そうか、オイお前」

「は、はい」

「単刀直入に言う」


ジルニクォーツを俺によこせ


ぽかんとするレイピア。
なんて言ったんだろうと考える、じるに・くぉつと聞こえたような気がするが、それが何なのかは全く知らない。
聞き返そうと思ったものの、リーダーはそう言った途端に右手を差し出して、さっきより強烈な眼差しでレイピアを睨みつけているため、やはり怖くて何も言えなかった。

怖いのと混乱しているのとで、何も言えずにオロオロしていると、痺れを切らしたのか、背中に背負っていた両手剣を引き抜いてこちらに向けた。


「渡そうとしないなら、お前を皇帝側の人間とみなして今すぐここで殺してやる」


恐ろしい言葉と形相に震え上がる。
後ろにいた武装集団の一人が慌てて制止に入ってなだめる。
そしてこちらを振り返り、ゆったりした声で話しかけてきた。


「君、つい最近ここに来るまでに、小さな石のようなもの拾わなかったかい?」

「石? あっ!」


ポケットの中を探り、今朝拾った透明な石を引っ張り出す。
そして、それを見せると、リーダーの人は満足気に頷き、他の人たちもホッとした様にざわめき出した。


「あ、あの。これは一体?」


張り詰めていた空気が軽くなり、なにより殺気のこもった目で睨まれなくなった事で安堵したレイピアが聞く。


「それは皇帝を倒すことのできる唯一のものだ。だから向こうも躍起になって探しているんだよ。
 ガーゴイルと戦っていた時、目の前の我々そっちのけで君の方を襲っただろう。
 それに、聞く限りでは襲われたのは初めてじゃない様子だ。
 流石におかしいと思ってね、ガーゴイルが躍起なって襲う理由なんて限られているだろう。
 だからもしかしたら、君が持っているんじゃないかと思ってね」


強引に連れて来てしまってすまなかった、と真面目に謝られた。
どうやら彼らとガーゴイルの目的はこのジルニクォーツという石だったようだ。
しかも皇帝を倒すことの出来る程凄い物らしい、狙われていたのもこれで納得できた。
でもだとすると当然の疑問が出てくる。
そんな大事なものがなんで畑の中から出てきたんだろう。
考えていたらさっきの人が察したのか、また話し始めた。


「ジルニクォーツは何百年も前に失われたと言われていたんだ。
 それが今日の地震が原因で出てきたみたいでね、皇帝は何らかの形でその事を知ってしまったようだ。
 あの町は歴史文献で記された最後の目撃場所で、ガーゴイルも大量に送り込まれた。
 何もない町がいきなり襲われたわけだから、我々もこれは何かあると思って、あのあたりを探索していたんだ。
 その過程でジルニクォーツのことを知り、 ガーゴイルに狙われた君を見つけたって訳さ」


つまり何百年も前に失われたと思われていたものが、今朝の地殻変動で出てきたのらしい。
宝石の原石かと拾ったが、とんでもないものだったようだ。

この世界を支配しようとしている皇帝には渡したくはないけど、だからといって僕が持ってても何の役にも立たない。
そして、ここにはそれを欲している人達がいるし、武器も持ってる。
なによりこの人達は、皇帝を倒そうとしている人達みたいだ。
だったら使い方すらわからない僕が持ってるより、この人たちに渡した方がいいんじゃないだろうか。
しかしそこでレイピアに、一つ疑問が生まれた。


「でも、こんな石がガーゴイルとか使ってくる皇帝に効くんですか?」

「皇帝がマルティネアコアを持っている事は知っているね?」


こくこくと頷くレイピア。
マルティネアコアとは、このマルティネス界を作り出したと言われている、強力な魔法力を持った石だ。
皇帝はこのマルティネアコアを見つけ出し、強力な魔法力を手に入れ、不老不死になったと言われている。
実際皇帝がこの世界に現れ暗躍し始めたのは、レイピアの祖母が生まれるよりずっと前からだった。


「伝承では、マルティネアコアを破壊するだけの魔法力のある、唯一の石だと言われている。
 随分長い間失われていたんだがね」


なるほど、これを使えば皇帝の力は一気に弱まるというわけだ。


「でも、この世界を作ったコアを破壊して、大丈夫なんですか?」

「この世界が作られてから、この世界の魔法はコアから独立していった。
 今、マルティネスは完全にこの世界の魔法力だけで繁栄している。
 だからコアを破壊しても、この世界はなくなりはしない。
 まぁ破壊した時、少なからず影響は受けるだろう。
 なにせとんでもない力を秘めているんだからね」


そういうことなら、問題はないのだろう。
レイピアがそっとリーダーの人を見ると、ゆっくりと頷いた。

レイピアはチラリとジルニクォーツを見て、そっと差し出す。
そしてリーダーの人が受け取った瞬間、




ジルニクォーツから激しい光とともに強力な魔法が一気に流れ込み始めた。





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