プロローグ
真っ暗でひんやりしたある日の夜。
町外れの森林手前にある小さなほったて小屋。
少年は、あるだけの毛布をかき集めたベッドで丸くなりぐっすり眠り込んでいた。
そんなことは露知らず、そこから少し離れた人気のない荒れた海辺に、淡い緑の光を放っている不思議な木が、さもはじめからそこに生えていたかのように現れていた。
そしてその木から人が一人、ドアのようなものからバタンと音を立てて出てきた。
周りをキョロキョロと見渡し、駆け回りたそうな顔でうずうずしている。
「おい、ついたみたいだぜ。」
大声で木の上の方に呼びかけると、カチャリと音がして窓が開いた。
「あっそ。」
窓から様子見程度に外を眺め、バタンと閉めた。
「明るくなってから様子見ってか。っかー、つまんねー!!なんか暴れてぇー!!!」
そう言うが早く、窓からポーンと金槌が降ってきた。
右足に直撃する音とギャッという悲鳴。
数秒身もだえした後、涙目でニヤニヤしながら笑いをこらえていた。
「おっけーおっけー、わかったよ。今は大人しくしてるさ。」
そういって扉に入り、バタンと閉める。
魔法によって構築、発展してきた世界マルティネス
そしてそこで極々普通の生活をしていた少年
何事も無く続いていた毎日の、極わずかな最後のひと時である