第十話


ブラデスの幽霊騒動から1週間がたった。


電力源は破壊され、職員室は半壊。
さらにはこの騒動の発端が校長自身であったこともあり、オブシディアン学園はもはや学園としての機能を失っていた。
生徒たちの職員に対する信用が著しく損なわれたため、授業に参加しない生徒が増加、結果ボイコット状態となったのだ。

レイピア達は授業に出なくてもよくなったことをいいことに、今回の事件の後始末を率先して続けていた。
提案したのはレイピアだが、タイムも案外乗り気になってくれたので、スコーピウスが修復できなかった大型木材道具の修復が予想以上に早く片付いた。
割と大工のような作業に慣れていたらしく、大型木材を担ぎ鋸や金槌で大型道具を作る姿は大の男よりもよっぽど様になっていた、女の人なのに。

スコーピウスの方も最初こそ渋りはしていたものの、壊した本人であることとタイムの説得により機械類の修理を引き受けてくれた。
元々科学側に居たらしい彼が扱うものはどうやら科学と魔法を組み合わせた科学魔法というものらしく、一度見た機械は大概復元可能とのことだ。
実際破壊した電力源をそっくりそのまま復元し、挙句の果てには勝手に改造を重ねて太陽光と地熱による発電なるものを付け加えてしまったようだ。
同席した他の生徒曰くもう自力発電はしなくてもいいらしいが、いかんせん作ったのがスコーピウスであるためあまり信用はできなかった。
今のところは通常に稼働しているらしいので機械に疎いレイピアは放置している。

当のレイピアはというと、破壊された職員室の瓦礫運びに机や書類の整理を担当していた。
壁や天井にあいた大きな穴こそタイムに板で塞いでもらったが、ジルニクォーツのおかげで瓦礫や机を運ぶことも大した労力にはならなかった。
なによりこういった片付けと掃除の作業は他の二人には向いていない。
一人暮らしの長かったレイピアだからこそなせる業である。

「よぉ、もうほとんど片付いたな」

「スコーピウスさん、お疲れ様です」

書類をひとまとめに積み上げた後、細かいほこりを箒で掃いていたところにスコーピウスが現れた。

「コロニーの種はどうやらあの一つだけらしいぜ、準備も出来たらしい」

「呼びに来たって事ですか、了解です」

「なぁ、その堅苦しいしゃべり方なんとかならねェ?
 せめてこの先輩の前だけでも砕けたっていいんだぜ?」

スコーピウスはどうにもレイピアのこのしゃべり方があまり気に入らないらしく、ここ最近事あるごとに指摘してくる。
この場合のレイピアの返しは決まって、「タイムさんに言いつけますよ」だ。
魔法の一言でスコーピウスはやたらオーバーなリアクションでのけ反ってひっくりかえる。
苦笑いで勘弁してくれよと言った後、カラカラと乾いた声で笑う。
多分本命はこのやり取りなんだろうな、といつもの謎の動きで先を行くスコーピウスについていきながらレイピアは思った。

授業に出ていない生徒は寮でこれからのことについて話し合っている。
整理していた資料の中から低学年高学年での争いの発端も教師たちによるものだと判明したため、この争いも調停されていた。
カウボーイハット達も交じり合い、今となっては学年もばらばらに打ち解けあっていた。

職員室に突撃した日、幽霊は寮内にも侵入していた。
後になって分かったことだが、幽霊が夜に出現し、寮内や職員室に入ってこなかった最大の理由は、光に弱いことだった。
その為電力源を破壊したあの日、寮内に灯るはずの電灯が着かなかったため幽霊が侵入してきたのだ。
幸い幽霊のほとんどが校長室と職員室に集中していたため、寮内に侵入した幽霊は数体程度に留まり、さらに侵入して数分経った後に霧散したため、寮内に侵入した際に応戦した生徒が置いてあった家具を数個破壊した程度に終わったのだ。

大型道具の大体を作り上げ、残りは寮の家具のみだけとなっていたためタイムはこちらで作業していた。
例のカウボーイハットも一緒である。邪魔になると分かっているのか手伝いもせずただずっと見つめていた。

レイピア達が寮内に入ったときタイムはちょうど最後の一つを作り終えたらしい。
手に持っていた道具を無造作に放り投げ、あぐらをかいて一息つき始めていた。
寮内に入ってレイピアは無意識に周りを見渡すが、見慣れた赤毛少女の姿はやはり見当たらなかった。

「おいそこ、引っ付くなっつってんだろうが!」

スコーピウスの怒声と何かをはがすようなビリッという音でふと我に返る。

「準備完了ってコロニーから連絡あったぜ、こんだけ片付けりゃ後は何とかなるだろ」

スコーピウスはカウボーイハットをタイムから引き剥がして突き飛ばし、そちらには目もくれずにタイムに話しかける。
話を聞いたタイムはカウボーイハットを振り向くことなく大きい声でコロニーを呼び、それに応える様に寮のど真ん中に木製の扉が現れた。
周りの生徒たちの驚いた声やカウボーイハットの抗議も無視し、レイピアの肩をむんずと掴んで開いた扉に放り込んだ。
そうか、修復作業に乗り気だったのはあの人から逃げるためだったのか。
空中をやけにゆっくりと浮遊しながらレイピアは察し、訪れるであろう激痛に身構えた。
地面に激突するとほぼ同時にドアが閉まる音が聞こえる。
一瞬体が浮いたような感覚、窓に目を向けると七色に光り輝き、移動が始まったことが分かった。
理解すると同時にやり残したことがもやもやと胸の中で渦巻いていた。

「さよならくらい言いたかったのに」

「あら、誰に対するさよならなのかしら?」

ここしばらく聞いていなかった声にぎくりとする。
そんな馬鹿な、いやでもまさか。隣でずっと聞いていたこの声は間違えようもない。
声が発せられた方向を恐る恐る振り返ると、重そうなスーツケース3台の上に足を組んで座りニヤリとしているキアラの姿があった。





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