第六話


次は一体誰が連れて行かれるのだろう。薄暗い牢屋の中、キアラは震えている仲間と共にこれから先のことをぼんやりと考えていた。
幸か不幸か、一緒にいたレイピアは偶然居合わせたドブネズミ達に遭遇した際連れ去られた。もしかして助けに来てはくれないだろうか。

きっとダメなんだろうな、心の底に浮かび上がった期待を自ら打ち砕く。
だって彼はこの計画には乗り気じゃなかった、それを強引に引き込んだのは私だ。これは自業自得の事じゃないか。
そもそも戦うことだって嫌がっていたのに、彼の持つ不思議な力が低学年を救ってくれるんじゃないか、救世主になってくれるんじゃないかと勝手に意識を暴走させていた。
一昨日幽霊から助けてもらった時の、あの姿に勝手に期待してしまったんだ。全部私の勝手な思い込みで巻き込んでしまっただけじゃないか。
あの時のお礼さえ、まだ言えていないのに…。

廊下の方から足音が聞こえ、仲間たちが怯えだした。
地下収容施設に連れていかれて戻ってきた生徒はいない。
仮に戻ってきた生徒がいても、みな死んだ魚のような顔でこちらには何の反応も示さず、ただ教師の従順な操り人形になっていた。
一体何がそうさせたのだろう、私達に一体何が待ち受けているのだろう。

怖い。震える体を抑える様に腕を組んで、近くにあったコンクリートの箱に糸の切れた人形のように崩れ落ちる。
一人、また一人と連れて行かれる。次は誰だろう、仲間だろうか私だろうか。

おい!そこ誰かいんのか、あぁ!?


下から声が聞こえたと同時に地面が揺れたかと思うとキアラは箱から転げ落ちていた。
中までぎっしりコンクリート詰めされてる感覚だったはずのそれから、おい誰だとぎゃあぎゃあ喚き声が続き、仲間と共に悲鳴を上げる。

「座標!そこにいるならここの座標教えてくれ!動けねェし周り見えねェから探りようがねェんだよ!」

「座標なんか知ってどうするつもりよ!」

「とりあえずこれから出るんだよ、あと俺をこんな目に合わせたやつらに仕返し!俺は暗くてせめぇとこが何より苦手なんだっつーの!!」

ガコンと箱は大きな音を立てるがやはりコンクリート詰めにされているらしい、倒れるどころか動くことさえできない。
この中に閉じ込められているやつは状況を理解しているのだろうか、そもそもコンクリート詰めにされているのに生きてしかもしゃべっているとはどういうことだろう。
混乱している最中にも後ろから足音は近づいてくる、心なしか鎖を引きずるような金属音も聞こえた。

「ねぇ、コンクリート詰めにされている状況から抜け出せるの?だったら私たちをここから助けることも可能なの?」

なんとか落ち着けるように努力しながら箱に声をかける。声を出すことがこんなに難しいことだなんて。

「ハッ、コンクリ詰めだけどここが牢屋だってのは大体わかってんだ。みんな連れてかれたし俺の話聞かねェしで現状変わらなかったけどな。
 だけどこれから出られたら牢屋だろうが地下施設だろうが脱出なんか俺にとっちゃ朝飯前なんだよ。どうする、もう時間がねぇんじゃねぇの?」

こいつにも足音が聞こえているんだ。もうすぐ連れていかれるかもしれないこともわかっているんだろう。
どうせこの先にあるのは地獄かそれ以上にひどいところだ、なら迷う必要なんかないじゃないか。

「私とここにいる仲間を、助けられるの?」

「お望みとあらば地下施設の奴らも引きずりだせらァ」

ガチャリと扉が開く音がして仲間が私にすがってきた。
中世の鎧のような恰好をした何かが牢屋の扉から手を伸ばしてきたと同時に、キアラは座標の大声で叫んだ。

足元が眩しく光り輝く。バリバリと地鳴りのような音がしてコンクリートの箱が割れ、中から高学年らしき青年が姿を現した。
薄水色の髪に怪しく光り輝くゴーグル、真っ白な白衣をまとった彼が右手を鎧に向けると光る円陣が現れ、そこから発射されたレーザーが鎧を貫き吹っ飛ばした。

「あーくそっ過去のトラウマが……大暴れしねぇと気がすまねェぞ!!」

甲高い声で叫びしゃっくりのような笑い声が一言漏れたが、どうにも笑っているような心境じゃないことはキアラにも判断できた。
今度こそ地面が大きく揺れた。仲間と共に悲鳴を上げると円陣に拾い上げられ、空中をふわふわと漂っていることに気が付く。

「助けていただきどうも御姫様、ついでだからそこの地下施設ぶっ飛ばすわ。捕まっとけ」

ゴーグル男がそう言って腕を動かすとまた円陣が現れ、先程よりもずっと太いレーザーが牢屋の壁を吹き飛ばす。
円陣に乗りその穴から飛び出すと、それに続くかのように足ものと円陣が勢いをつけて飛行し、悲鳴を上げて振り落とされまいとしがみつく。

牢屋から続く廊下の先はまるで地獄と言っても過言ではないような光景が広がっていた。ボロボロになりながら働かされている子供に、鞭打つ大人。
何より驚いたのはその仕組みだ、一目見るだけでわかる、なんて単純明快なことだろうか。

「嘘…学校の電力ってここの自家発電装置で動いてたの!?」

「まぁ妥当なとこだろうねェ、発電所なんてこの辺りにはなかったし」

ケラケラと陽気に笑う男が両手を指さした形でくるくると回すと、円陣が回転してまるでフリスビーのように飛び、自家発電装置の動力源を切り倒した。
気付いた大人たちが放ってくる攻撃をひらひらと花びらが落ちるような動きでかわしていったかと思うと、特大の円陣を作り出しては手当たり次第に装置を破壊していく。
流石の教師たちも手に負えないと判断したのか、悲鳴を上げて一目散に逃げ始める。なんとかして逃げ遅れた子供たちを助けなければ。

突然唸るような轟音が聞こえたと思うと、壁が破壊されドブネズミの集団が黒バイクに乗って現れた。
頭の悪い集団である彼らでもこの現状を察したのか、入ってくるなり逃げ惑っていた子供たちを見つけてはバイクに乗せれる限り拾い乗せる。
ゴーグル男もその様子を確認したのか、短い奇声をあげると彼らに向かって入ってきた壁に向かって逃げるよう一声吠え、それを聞いたドブネズミたちは一斉に壁の穴に戻っていく。
そしてゴーグル男が両手を広げるような動きをしたかと思うと地下施設の床が光り始め、それと同時にキアラ達が乗った円盤も壁の穴に向かって飛行し始めた。
円陣があと少しで壁に辿り着くというところまで来たとき、ゴーグル男が大声で奇声をあげたかと思うと床が光り輝いてレーザーが発射された。
悲鳴を上げて必死に円陣にしがみつく。レーザーがキアラ達の乗っている円陣に辿り着くすれすれで壁の穴に放り込まれ、後ろから響き渡る轟音を聞きながら床に放り投げだされそのまま転がり反対側の壁に叩き付けられた。

「な、朝飯前の簡単な仕事だったろ?」

あちこち痛む体を抑えながら、上下さかさまの状態でニヤニヤ笑っているゴーグル男の顔に、キアラはあらんかぎりの力を込めて蹴りを入れた。





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