第七話


旧校舎近くの使われていない教室、レイピアは雑然と積まれた机や椅子の上に適当に座っているタイムの怪我の手当てをしていた。

「別にすぐ治るから手当なんて必要ないんだが」

雑菌が入る場合もあるので一応、と軽く受け答える。
実際かすり傷程度の怪我ばかりで、しかも今この場で傷口がふさがっていくのがありありと目に見えていた。
だが傷口から入った雑菌が病気を引き起こす、幼い頃祖母からそういう話をよく聞いていたので念のため消毒くらいはと思ったのだ。

手当てをしながら今までのことを振り返り、これからのことを考える。
てっきりあの高学年、シオンが今回の事件の犯人だとばかり思っていた。
しかし実際はほとんど関係なく、むしろ被害者に近かった上にそんな彼女たちに暴行まで加えた挙句にけがを負わせた結果になった。
ここまでのことをやっておきながら幽霊騒動に関する収穫はゼロ、状況は悪化する一方だ。

怪我の手当てを終え、これからのことについて相談しようとタイムの方に顔を向けたとき、聞き覚えのある声が廊下から聞こえた。

「ようお二人さん、なんか知らねェうちに一戦交えたみてェだな」

「スコーピウスさん!キアラさんも!」

手をひらひらさせながら見覚えのあるゴーグルが教室に入ってきた。
キアラや連れていた子供も一緒だ。

「タイムさん、スコーピウスさんが地下施設にいたの知ってて彼らをけしかけたんですか?」

「確証はなかったけどな、長期間こいつが暴れずにじっとしてるってことは捕まってるくらいしかなかったし」

「ちょっと、私のことはなんでもないっていうわけ?」

キアラがそういうと同時に後頭部に衝撃が走り目の周りを星がキラキラ飛ぶ。
心配していなかったわけではないと話すが口から出てくる言い訳がましい言葉が自分でも虚しく聞こえる。

「おやぁレイピア、ちょっと見てねェ間にガールフレンドなんてやるじゃねェの」

となりでニヤニヤ笑っていたスコーピウスにキアラが殴りかかって壁にめり込ませた。
なんて隙のない完璧な動きなんだろうと少し感心する。

「あー!タイム、お前ここにいたのか。なんだよ牢獄行くって言ってたのにいねーんだもん探したぞ」

カウボーイハットの集団も黒バイクに乗って現れた。
地下施設にいたのだろうか、衰弱した子供たちを乗せていた黒バイクはキアラの指示で寮の方へと運ばれていく。
レイピアをさらったあのカウボーイハットはタイムを見つけたと思うと、タイムの肩に腕を回して体重をかける。
カイボーイハットがさらに近寄るとタイムが少し顔をしかめた。

「おい!そいつそんな格好だしそんな口調だからわかりづれぇけど女だぞ、あんまべたべたすんな」

壁から這いずり出して様子を見ていたスコーピウスがとうとう言ってしまう。
キアラがものすごい勢いでタイムを二度見したが、カウボーイハットの方は全く動揺せずむしろ余計タイムに近寄った。

「知ってるっつーの、知っててべたべたしてんの。一目惚れしたんだよ」

レイピアも今度ばかりはタイムの方を向いたが当のタイムは頭の上にはてなマークを浮かべていた。
だめだこの人何も理解していない。
スコーピウスが割って入りカウボーイハットをタイムから引き剥がす。ノリを強引に引き剥がすバリッという音が聞こえた気がした。

「あんたに邪魔される覚えはないんだけど、変なゴーグル男」

「おーし地下施設を吹っ飛ばしたこの俺様と一戦交えてみますかねぇ」

それを聞いたタイムがスコーピウスの足元をすくい蹴り腰をひねって一回転させそのまま地面に頭から突き刺した。
なんて手慣れた無駄のない動きなんだろう。
ぽかんとしているカイボーイハットの隣でやけに機嫌がいいと思ったらとタイムがブツブツ呟くのが聞こえた。

「これからどうします?もう情報全くなくなりましたけど」

「え、なんだ幽霊けしかけてる教師どもをぶっ潰しに行くんじゃねェの?」

ずぼりと床からなんでもない様子で頭を引き抜いたスコーピウスから思わぬ情報が飛びこんだ。
白衣についた砂埃を払っているスコーピウスに全員の視線が降り注ぐ。

「おいマッドサイエンティスト、お前捕まってる間に一体どんな話を聞いたんだ?」

「どうもこうも襲われてんのはみんな夜遅くに外うろついてる不良生徒だろ、それを一番うざく思うのは誰だって話だ」

タイムの一言に手をひらひらさせながら受け答えるスコーピウス。
レイピアがキアラに顔を向けると納得したような顔をしている。

「確かに教師が幽霊からの被害を受けたっていう話は聞いたことがないわ」

「おいおい待てよ、それじゃああの糞教師どもがグルになって幽霊騒動引き起こしてるっていうのかよ!?」

「そもそも生徒に被害が出てるなら普通教師が真っ先に調べるだろうに、外出自主規制で留めるって変な話だろ。
 教師が襲われる心配がないっていうなら話は別になるけどな」

これだからおバカさんはと両手をあげてやれやれと首を振るスコーピウス、見ててむかついたのかキアラが横から蹴りを入れた。

「なんだかよくわかんねーけど教師たちが犯人なら俺たちドブネズミだってやってやる、普段から見下されててむかついてたんだ」

「へぇいいじゃねェの。どっちが多く倒せるか競争しようぜ」

言うが早く、スコーピウスは魔法陣に飛び乗り颯爽と飛び去り、ドブネズミたちもそれに続いてレイピア達3人は通り残されてしまった。

「止めなくていいんですか、あれ」

「どうせ止めたって聞かないだろ。ま、いい機会だ。混乱に乗じて職員室も調べてみるか」

無理だという様子で手を振った後、銀のカードを取り出してボードに変えて乗り込むタイム。
差し出された手につかまって後に続き、キアラも少しためらったが結局乗り込んだ。





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